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猫日記

ほら、だから猫に文章を描かせるとこうなるんだ

上高地の涼

旅行

芥川龍之介の『河童』を読んだから上高地河童橋に行ったわけではない。
学生時代、サークルの合宿で何度も長野に行ったはずなのに、琵琶池と小布施の記憶しかないのはあまりにかなしいと思ったのだ。

都会の、じめじめと湿気を帯びた潮風やコンクリートの反射熱、あの喧騒から逃げるため、北陸新幹線で松本へ上陸。
気温は東京とそこまで変わらず、陽射しは強いものの、からっとした暑さだ。

渕東渚の上高地線と、バスを乗り継ぎ上高地河童橋へ。道中、青空文庫で『河童』をダウンロードした。
山沿いは天気が変わりやすい。霧が深くなって、小雨が断続的に降る。迷い込んだら抜けられそうにない鬱蒼とした森が広がる。

河童橋周辺の特徴は、森を抜け突然開けた台地と、高い山々のコントラストだと思う。

梓川は有色透明で、翡翠のように青みがかっていた。水深があるのだろう。
空の深い青、山の緑、残雪の白さ、灰色の霧。河童橋の朱が、それぞれを引き立てる。

宿に戻って、夜中に『河童』を読んだ。
東京の何百倍もたくさんの星が見えた。
背後に、頭の皿に水を湛え、白樺の小枝を小脇に抱えた、亀のようなカエルのような皮膚のあいつがふと立っていても、何の不思議もないような気がした。